ヒポクラテスは、古代ギリシャにエーゲ海のコス島に紀元前460年頃に生まれた実在の人物です。医療はそれまで原始的な迷信や呪術で行われていたのに対して、臨床と観察を重視し医学を経験的な科学として発展させたのがヒポクラテスの大きな功績です。これによりヒポクラテスは“医学の父”と呼ばれ、後世に大きな影響を残しました。医師は、患者の秘密を守る、患者に害を及ぼす治療を行わない、得た知識を仲間に分け与えるなどの医療規範に基づいて行動していますが、その基礎となる医療倫理、職業倫理、患者の権利を確立したのがヒポクラテスであり、これらを文書化した“ヒポクラテスの誓い”は、いまでも医療倫理の基礎として重視されています。
ヒポクラテスはコス島で多くの弟子を育てましたが、大きなプラタナスの木の下で医学を教え医療を行ったとされています。このプラタナスは代を重ねてコス島に現存しており、“ヒポクラテスの木”と呼ばれています。ヒポクラテスの木は株分けされて、世界中の医学校、研究所、医療施設に散らばって、それぞれのシンボルツリーとなり大きな緑陰をつくっています。
日本赤十字社には、1977年に創立百周年を記念してギリシャ赤十字社から苗木が送られ、全国の赤十字病院に植えられました。しかし、残念なことに年月が経過し多くの木がいろいろな理由で失われていたことが日赤の調査で明らかになりました。残された数少ない株のなかに、芳賀赤十字病院(栃木県真岡市)に残されていることがわかり、院長先生の御努力により、いくつかの失敗の後に苗木を育てることに成功しました。ご厚意により提供された一株が2021年11月に当院の敷地に移植され、寒い冬を乗り越えて根付いたことが確認されました。
まだ1m足らずの幼木ですが、コス島のヒポクラテスの木と同じ遺伝子をもちます。
当院のシンボルとして大きく育ち、我々を末永く見守って欲しいものです。
そして、このヒポクラテスの木の下で、人道博愛の精神のもと優れた医療者が育ち、良質で安全な医療を実践することを祈りたいと思います。