肛門疾患について

肛門(正しくは肛門管)は、口側から下がってきた腸と、おしりからくぼんできた皮膚がつながることによってできます。つながった境界線は、「歯状線(しじょうせん)」と呼ばれ、歯状線より上は粘膜、下は皮膚です。歯状線より上の直腸粘膜には知覚神経(痛みを感じる神経)は通っていませんが、歯状線より下側の皮膚部分の静脈叢には知覚神経が通っています。

1.痔核(じかく)

いわゆる「いぼじ」です。肛門のなかにできるものを内痔核と呼び、外にできるものを外痔核と呼んでいますが、一緒にできるものもありますし、つながっているものも多くあります。原因は、便秘や下痢、女性では妊娠や、排便の時に気張りすぎるなどがあげられます。長時間座りつづけたり、妊娠などで骨盤にうっ血(血液がたまった状態)が起こって肛門の血液循環が悪くなることも原因と考えられています。内痔核の症状は出血、脱出(肛門の外に飛び出す)などで、歯状線を超えると痛みも伴います。 外痔核は突然の強い痛みが特徴です。

治療法には、薬物療法を中心とする保存的治療と外科的治療があります。 薬物による治療ですが、肛門内に入れる軟膏や坐薬と、腫れ止めや便秘薬などの飲み薬を症状に合わせて組み合わせます。外科的治療には手術と硬化療法、その他があります、手術としては、痔核を切り取る結紮切除術が広く行われており、すべての痔核に対応可能です。内痔核の状況によっては、専用の器械で直腸粘膜を全周性に切除・縫合するPPH法なども行われます。また、薬液を注入して内痔核を硬化させるのが硬化療法です。2005年にALTA(ジオン注R )が健康保険で使用出来るようになり、広く行われるようになりました。結紮切除術と組み合わせて行うことも多いです。

結紮切除術
PPH法
硬化療法

2.裂肛(れっこう)

いわゆる「きれじ」と言われているもので、肛門の粘膜が裂けた状態です。硬い便がでたときに痛みとともに出血するのが急性裂肛で、一般によくみられ、比較的治りやすいものです。何度もくり返しているうちに慢性化して慢性裂肛になります。慢性裂肛になると、痛みと狭窄のため便を出しにくくなり、そのため便秘となり、さらに便が固くなって裂肛の症状が強くなる、という悪循環に陥り、治りにくくなります。慢性裂肛に対しては、肛門が狭くなり、痛みが続く場合には、手術が必要となります。

3.痔瘻(じろう)

痔瘻は、肛門のなかに感染がおきて、肛門の外にむけてトンネル状の穴(瘻管)ができ、これより膿が出てくる状態をいいます。最初は、肛門の周囲が腫れて痛くなり(肛門周囲膿瘍)、自然に破れたり、病院で切開したりして膿が出ると痛みが軽くなります。切開した肛門周囲膿瘍から痔瘻への移行するのは1/3程度とされています。痔瘻になると、治ったり悪くなったりを繰り返すようになります。炎症性腸疾患のひとつのクローン病でも合併しやすい病気です。

痔瘻の治療法は、手術以外ありません。手術は、切開開放術が一般的ですが、肛門機能の低下が心配な場合には括約筋温存術が用いられます。治りにくい場合には、シートン手術(痔瘻にゴム紐をとおす)で時間をかけて治療することもあります。

4.直腸脱(ちょくちょうだつ)

大腸の一番下の部分を直腸とよびますが、その一部が肛門より外に脱出するものを直腸脱と呼びます。高齢者で骨盤底筋が弱くなって直腸を支えきれなくなって脱出する場合が多いのですが、なかには少数ながら若い人でもみられます。脱出すると痛みや、便や粘液の漏れがおきます。

治療には手術が必要です。全身麻酔が可能であればお腹側から直腸を吊り上げる直腸固定術を行います。当科では腹腔鏡手術で行っています。高齢者で手術が肉体的に負担となる場合や、脱出が小さい場合には、肛門側からの手術を行いますが、再発が多い欠点があります。