高齢者施設における骨粗鬆症診療の特殊性
施設に入居する高齢者の多くは、認知症や運動器障害を持っており、軽微な転倒で骨折を起こしやすい方々です。こうした高齢の方々は、
が、帯同する職員のマンパワー不足などから、これまで整形外科の受診や検査を受けることが非常に困難でした。
施設に入所する高齢の方々が病院を受診し検査を受けるには、様々な障壁があります。
施設の高齢者全員が検査・治療を受けるためには、時間・労力がいくらあっても足りません…
高齢者施設への往診による骨粗鬆症診療
施設入所中の高齢者に骨粗鬆症の検査・治療を受けて頂き、骨折を予防して頂きたいと考え、2014年1月より近隣の施設を対象に、往診による骨粗鬆症検診を始めました。
往診では、定量的超音波骨量測定器(QUS)という器械に、足をのせ、踵の骨の密度を超音波で測定します。
骨粗鬆症学会のガイドラインでは、骨密度は躯幹部DXAで測定するよう勧められておりますが、往診では利用できません。代わりに、QUSが躯幹部DXAとどの程度相関するのか、参照データ(下図)を活用しております。
高齢人口(80歳以上の女性)におけるQUSの陽性的中率(PPV)は高い
QUSがYAM値の80%未満 → 躯幹部DXAも80%未満である確率は96%
QUSがYAM値の70%未満 → 躯幹部DXAも80%未満である確率は77%
さらに、患者データとして、年齢、性別、身長・体重、骨折の既往などを調査し、FRAX(脆弱性骨折のリスク評価ツール)で骨折リスクを算出します。
http://www.shef.ac.uk/FRAX/index.aspx?lang=jp
検診の結果を、施設に往診している嘱託医(かかりつけ医)に報告し処方を依頼します。整形外科と施設、かかりつけ医が連携することで、骨粗鬆症性骨折を減らそうという試みです。今後、1-2年毎に検査を行い、治療継続率や治療効果を確認していく予定です。
これまでの活動(2014年1月より8か月間のまとめ)
宮城県内の4施設(特別養護老人ホーム7施設、グループホーム7施設、その他3施設)に入所する高齢者368名(女性300名、男性68名、平均年齢86歳)に検査を受けて頂きました。施設の記録から骨折の既往と骨粗鬆症治療の有無を調査し、QUS (Achilles A-1000 GE healthcare)を用いて踵骨の骨量を測定しました。
368名中124名(34%)に脆弱性骨折の既往があり、そのうち骨粗鬆症の治療を受けていたのは51名(41%)でした。骨折の既往が確認できなかった244名のうち、骨粗鬆症の治療を受けていたのは50名(20%)でした。脆弱性骨折の発生リスクは平均で女性34%、男性9%であり、踵骨の骨量は女性がYAM値の54±9%、男性が63±12%でした。
施設に入所中の高齢者では、骨折の既往や骨量低下といったリスク因子にも関わらず、骨粗鬆症の検査・治療を受けることが容易ではありません。脆弱性骨折の発生を予防するため、高齢者介護施設における骨粗鬆症の検査・治療を普及させる仕組みを構築する必要があります。
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