第136回 仙台日赤医療集談会

2016年3月16日
消化器内科部長 大楽尚弘

知って得する「ピロリ菌と胃がんのお話」

(1) ピロリ菌と胃がんについて
世界では1年間に100万人が胃がんと診断されます。日本では1年間に13万人が胃がんと診断されており、日本は世界の胃がんの1/8を占める胃がん大国といえます。がんの臓器別罹患数で胃は大腸・肺とほぼ同数の第3位、死亡者数は1年間に5万人で、これも肺・大腸に次いで第3位です。早期発見と治療の進歩により、肺がんや膵がんに比較すると死亡率が低く治る患者さんが多いというのも特徴の一つです。

ピロリ菌は1983年にオーストラリアの病理学者のウォーレンとマーシャルにより発見され、両名はその功績により2005年にノーベル生理学・医学賞を受賞しております。ピロリ菌は5歳くらいまでの幼少期に胃に感染し急性胃炎、萎縮性胃炎を経て胃十二指腸潰瘍やMALTリンパ腫そして胃がんの原因となることが明らかになってきました。2008年に日本から、ピロリ菌の除菌により内視鏡治療後の異時性がんの発症リスクが1/3に低下するという臨床研究の結果が発表され、2013年2月21日には内視鏡検査において胃炎の確定診断のなされた患者さんに対する除菌療法が保険適応となりました。除菌例が増えるに従い、除菌例からの胃がん発見もまた増えてきています。除菌により胃がん発症リスクは30-40%減少するといわれていますが、0にはできません。特に萎縮性胃炎の進んだ高齢者でのリスク低下は限定的であり、より若年での検査・除菌が望まれます。除菌後は必ず除菌判定を行うことが重要であり、除菌後も長期間にわたる定期検査が必要となります。

(2) ピロリ菌感染診断と除菌療法
保険診療では内視鏡検査によって胃炎の確定診断がなされ、ピロリ菌感染が疑われるものに対して感染診断が行われます。感染診断には内視鏡および生検を用いた侵襲的な検査(迅速ウレアーゼ検査、鏡検法、培養法)と非侵襲的な検査(尿素呼気試験、抗ピロリ菌抗体、便中ピロリ菌抗原など)があり、それぞれに一長一短があります。内服しているお薬が判定に影響する場合もありますので、内服薬を申告していただく必要があります。

除菌療法(一次除菌)はプロトンポンプ阻害剤と2種類の抗生剤(アモキシシリン、クラリスロマイシン)を1日2回7日間内服して行います。一次除菌が失敗した場合には二次除菌としてクラリスロマイシンをメトロニダゾールに変更し同様に7日間内服します。

除菌判定は除菌薬終了後、4週以上経過したのちに、主に尿素呼気試験を用いて判定します。抗ピロリ菌抗体は除菌に成功しても抗体価が低下するのに何か月もかかります。6か月後に抗体価が1/2に低下した場合に除菌成功と判定しますが、ほとんどの例では尿素呼気試験を用いて判定しています。

除菌療法の副作用には、下痢(ひどいと出血性大腸炎)、肝障害、口内炎、味覚障害、発疹があります。また胃酸分泌が回復することで、胸焼け症状が出現することもあります。もともと逆流性食道炎や食道裂肛ヘルニアのある方や、亀背の高齢女性などは逆流症状によるQOL低下などのリスクもあり治療前に十分な説明が必要となります。

(3) 胃がん治療に関する最近の話題
胃がん治療は外科手術が基本ですが、条件がそろえば内視鏡で治療することも可能です。外科手術は確実な切除が可能で早期から進行がんまで幅広いがんが治療対象となる一方で、侵襲が大きい、術後QOLが低下するなどの問題はあります。内視鏡治療は一部の早期がんが対象となりますが、胃を温存できQOLが保たれる、入院期間が短いなどの利点があります。

内視鏡治療として大きさに関係なく、十分な安全域をもって病変を一括で切除することが可能なESD(Endoscopic Submucosal Dissection: 内視鏡的粘膜下層剥離術)が開発され行われるようになりました。これは高周波ナイフを用いて病巣周囲の粘膜を切開し、粘膜下層を少しずつ剥離して切除する方法で、内視鏡や各種処置具・局注液など、医療機器・器具の進歩によって可能となりました。しかしながら、対象は早期胃がんに限られるため、早期発見が大変重要となります。

(4)最後に
胃がんはピロリ菌の除菌によるある程度のリスクを減少させることができ、早期に発見できれば治すことが可能ながんです。まず一度ご自身で内視鏡検査・ピロリ菌検査を受けていただき、家族や親類・友人など周りにいる大切な人たちにもぜひ検査をすすめていただきたいと思います。