医療集談会

第130回仙台日赤医療集談会<9月17日>

「外来で見る下血—アカとクロ」

第一外科部長 舟山 裕士

はじめに

消化管出血は、口から出る物を“吐血”、肛門から出る物を“下血”または“血便”と呼びます.“吐血-Hematemesis”は食道、胃、十二指腸からの出血物が口を通してそとに排出される現象です.これに対して、“下血”“血便”は消化管内の出血が消化管運動とともに可能に下って排出される物ですが、
“下血—melena”おもに上部消化管由来の出血が小腸〜大腸を下って肛門より排出される物で一般には黒色の粘稠な便となります.一方”血便-Hematochezia”下部消化管由来の出血に認められる血液の混じた便で通常赤い便となります.元来、ラテン語では”hemat-“は“血、赤”、”melano-“は“黒”を意味します.
“hemat-“には血液に類する用語が沢山あり、”melano-“には、”melanoma”, “melanin”, “melanocyte”など黒に類する言葉が沢山あり、色で使い分けがなされていることがわかります.しかし、日本では、”血便“も“下血”も混同されて使われているのが現状です.
 もっとも、ヘモグロビンは胃酸に触れたりすることにより、吐血でもやや時間を経てでてくるコーヒー残渣様と表現されることもあり、上部消化管出血からの吐血でも出血の速度、量により新鮮血から黒褐色までいろいろです.

おもな下血をきたす大腸疾患

  1. 大腸憩室症
    本邦では右側型が多いが、左側結腸の憩室の頻度は加齢とともに増加し、出血は右側が多い.多くの場合、出血部位の同定は困難であるが、下血時の緊急造影CTは有用です.
  2. 虚血性大腸炎
    突然腹痛とともに始まり、その後に血性下痢、左下腹部痛を伴うことが多い.60才前後の女性に多くまれに若年女性にもあり左側結腸に多い.臨床経過により、1.一過性、2,狭窄型、3壊疽型にわかれ、一過性が最も多く、狭窄型は5〜10%とされ、待期手術の適応です.壊疽型は最も重篤で緊急手術の適応となります.
  3. 感染性腸炎
    各種の細菌性(結核、コレラ、腸チフス、赤痢、抗菌薬関練腸炎—偽膜性腸炎)、寄生虫(アメーバ赤痢、クラミジア、ジアルジア、旋尾線虫、蟯虫、回虫など)、ウイルス(ロタウイルス、アデノウイルス、CMVなど)があります.
  4. 薬剤性腸炎としては、抗生物質(偽膜性腸炎、急性出血性腸炎)、NSAIDs起因性腸炎、PPIなどによる顕微鏡腸炎(膠原線維腸炎など)があり注意を要します.
  5. 大腸癌
    大腸癌は食生活の欧米化(動物脂肪摂取の増加と食物繊維摂取の減少ともに急増しており、女性での癌死亡のトップとなっています.肛門出血を訴えて外来受診する患者の半数は、直腸癌と診断されるといわれております.肛門疾患と軽く考えずに必ず検査をしていただきたいと思います.
  6. 炎症性腸疾患
    潰瘍性大腸炎とCrohn病は若年者に多いとされていますが、壮年層、高齢者層にも近年発症がみられ決してまれな病気ではなくなってきました.新しい治療薬が開発されてきており明るい兆しが見えてきています.
  7. 肛門疾患
    痔核(いぼぢ)、裂肛(きれぢ)、痔瘻は三大肛門疾患といわれいずれも肛門出血を来します.便の最後に鮮血がでて痛みを伴うのが特徴です.また、直腸が下垂して肛門外に脱出状態を直腸脱といいこれも痛みと出血をともない、さらに便失禁も伴います.粘膜だけが脱出する直腸粘膜脱もありますが、特に高齢者に多く、痔核と同様に手術が必要です.

最後に
下血をきたす疾患は多くありますが、なかには大腸癌や直腸癌、肛門癌が潜んでいることもあります.どうぞ遠慮なく病院のドアをたたいて下さい.

下血をきたす疾患

小腸 クローン病、メッケル憩室、小腸潰瘍、AVM、腸結核
大腸 潰瘍性大腸炎、クローン病、大腸憩室症、大腸ポリープ、大腸癌、虚血性大腸炎、出血性腸炎、アメーバ性大腸炎、偽膜性腸炎、腸結核、AVM
直腸 直腸癌、直腸潰瘍、直腸粘膜脱症候群、直腸脱
肛門 痔核、裂肛、痔瘻、直腸粘膜脱