診療科から

「抗がん剤治療による吐き気」

血液内科部長 福原 修

 

万一がんが見つかって治療が必要になったとき、多くの方がまず心配するのは抗がん剤の副作用です。多くの抗がん剤はがん細胞にはたらき、それが増えるのを抑えます。しかし、同時に正常な細胞にも作用してしまうため、さまざまな副作用が起こってきます。例えば、血液の元になる細胞に影響すれば血液が減りますし、毛根の細胞に作用すれば脱毛します、なかでも、皆様が最も心配するのが「吐き気」です。吐き気が強い時期はつらいですし、場合によっては体調を乱してしまうこともあります。

なぜ抗がん剤で吐き気が起きるのでしょう?
吐き気は脳の中の延髄(えんずい)にある吐き気のスイッチ(嘔吐中枢)が刺激されることによって起きます。吐き気を起こす刺激には主に3つの経路があります。

  1. 抗がん剤により、小腸にある細胞が刺激されるとセロトニンと呼ばれる物質が出て、これが胃などにある受容体を経て嘔吐中枢を刺激する。
  2. 脳の第4脳室近くにある部分が刺激を受け、ここから嘔吐中枢に刺激が行く。
  3. 不安などが強いと大脳皮質が刺激され、ここから嘔吐中枢に刺激が行く。

吐き気の起き方には個人差があり、同じ治療を受けても全員に同じように起きるわけではありません。一般に、次のような人たちが「吐き気を起こしやすい」と言われています。

起こる時期によって、24時間以内に起こる「急性嘔吐」と、24時間以降起こる「遅発性嘔吐」があり、遅発性では2-3日目が最も強く、長い場合は一週間続くものもあります。また、初回の治療の前は不安が一番強いので吐きやすいと言われます。過去の抗がん剤治療で吐き気を経験している方も吐きやすいといわれ、これらは「予測性嘔吐」と呼ばれます、「また吐くんじゃないか」と心配が強い人ほどやはり吐いてしまう傾向にあります。

抗がん剤の種類ごとに、どの程度の吐き気をどの時期に起こしやすいか、という事がある程度予測がつきますので、医師はそれに合わせ吐き気を抑える薬(制吐剤)を使い分けます。
こうして吐き気のしくみがわかってきたことで、吐き気を抑える薬(制吐剤)もどんどん進歩してきています。例えば、リンパ節のがんである悪性リンパ種のホジキン病で用いられる治療にABVD療法というものがあります。私が医師になりたての頃は強い吐き気が出る薬でしたが、今はほとんど吐かないですむようになっています。
「抗がん剤を使えば必ず吐き気が起きる」と思い込んでいる患者さんは少なくありません。ほとんど起きないものからほとんど起きるものまで様々ですので、自分の治療の場合どうであるのか、医師から十分に説明を受けることが大切です。もしかしたら、無用な心配かもしれません。