医療集談会

第125回仙台日赤医療集談会<9月25日>

『乳がんと遺伝子検査』

第二外科部長 大越 崇彦

 平成25年5月、ハリウッドの有名な女優さんの告白をきっかけに、乳がんと遺伝についての関心があらためて高まりました。
 乳がんのうち、その5-10%は遺伝的要因が関与しているとされており、その代表例が「HBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)」です。現在、BRCA1またはBRCA2と呼ばれる2つの遺伝子が検査可能であり、これらは性別に関係なく1/2の確率で子に受け継がれることが判っています。

 これらの遺伝子を持つ人すべてが、乳がんになるわけではありませんが、持たない人より明らかに高い頻度で発症します。
 実際の検査は、採血のみで済みますが、保険適応にならないので自費となり、しかも1社で特許が独占されているためかなりの高額です。
 加えて、自分が本当に検査を受けるべきか、家族や親族に伝えるべきか、検査を受けさせるべきか、結果を知った後、それをどう受け止めてどう対処すべきか、など難しい問題があるため、検査前、後に、それぞれ、専門的なカウンセリングを受けることが必須、とされています。(仙台市内では、東北大学病院の乳腺外科と遺伝子科の連携で対応可能、とのことです) 遺伝子を持っていることが判れば、カウンセリングを行った上で、検診の頻回施行、抗癌剤の予防的投与、予防的手術の施行、などが選択肢となります。

 乳がんはますます増加傾向にあり、遺伝性乳がんに対する認知度も高まっていく中で、「知る覚悟」があるか、という心理的問題、「知らない権利」はあるのか、保険契約時の選別、結婚、出産、就職などへの障害や差別につながらないか、という社会倫理的な問題も解決されておらず、単に医学的な問題だけでない、いろいろな課題が残されているのが実情です。

 

第126回仙台日赤医療集談会<11月28日>

「生活習慣病の視点から見た妊娠糖尿病」

東北大学 産科長 教授 杉山 隆

 糖尿病罹患者数は世界的に増加していますが、そのなかでも患者数の多い2型糖尿病は遺伝的素因が基本にあり、後天的な要因である運動不足,高脂肪食による肥満やストレス、加齢などが加わることにより、インスリン作用障害が生じ、糖尿病を発症するものと考えられます。わが国における晩産化は明白な現象であり、今後妊娠中に遭遇する糖代謝異常女性はますます増加するものと考えられます。

 妊娠糖尿病(gestational diabetes mellitus; GDM)の臨床的意義として、①妊娠・周産期合併症の増加、②母体の将来の2型糖尿病(type 2 diabetes mellitus; T2DM)発症の増加、③児の将来の生活習慣病発症の増加、の3点があげられます。したがって①のような短期的合併症の予防のみならず②、③のような長期的合併症の発症予防のために産後に介入を図ることは、健康寿命維持を含めた女性のヘルスケア向上のみならず次世代の健康促進さらには医療経済的効果の点からも意義深いと考えられます。現時点での医学的根拠として将来のT2DM発症予防の介入法として、以下の4点があげられます。

  患者教育:妊娠中からGDM女性に対し、将来のT2DM発症ハイリスク群であることの自覚を持たせるための教育を行うことが効果的であることが報告されています。
  生活習慣の改善:適度の運動が有効であることが報告されています。
  母乳保育:母乳保育は母児にとって有効であることが知られています。
  薬物(probiotics)療法:インスリン抵抗性改善薬やビグアナイド製剤が有効であることが示されていますが、一次予防として保険収載されていない点が問題です。その点、乳酸菌なのprobioticsは腸内細菌叢の正常化を図ることによりインスリン抵抗性改善に作用する可能性があり、今後の成果が待たれます。

 以上、GDM女性では、将来の生活習慣病発症予防の視点より、妊娠中のみならず産後の母児への継続的支援が重要であると考えられます。