診療科から

皮膚科部長 田畑 伸子(たばた のぶこ)

 皮膚の病気を持っていない人は、一人もいないでしょう。ほくろ、しみ、たこ、いぼ、肌荒れ、にきび、ふけなどすべて正式な病気としての名前を持っています。皮膚の病気の名前は、いろいろな科の中でも多いほうだと思います。

 皮膚の病気の特徴は、皮膚の構造と機能に基づいて現れます。皮膚の最も大切な役割は、外界から体内の環境を守ることです。外界は非常に乾燥しています。この乾燥から体内の湿潤環境を守るために、皮膚は角層という構造を作ります。角層は、体内の水分が外に出て行くのを防ぐとともに、自ら水分を保持して体の動きを滑らかにします。また、微生物や化学物質の侵入も防ぎます。この角層がうまく作れない病気に、魚鱗癬という病気があります。皮膚が割れたり、ひどくがさがさした状態になったりします。高度の脱水症や感染症をおこして、重症の場合生まれてすぐに死んでしまうこともあります。やけどで広い範囲の皮膚が失われると、水分がどんどん抜けてしまい、細菌などの侵入も防ぐことができず命に関わります。最近では、アトピー性皮膚炎の何割かの人に、遺伝的に角層がうまく作れない人がいて、環境中の蛋白が侵入し易い状況になっているためアレルギーを発症するということが判ってきました。

 次に、この角層というバリヤーを破って侵入してくる敵を迎え撃つために、皮膚には多くの免疫に関係する細胞が常駐して見張りをしています。免疫とは、ウイルスや細菌などの体に害をおよぼす微生物が侵入した時や、ガンなど好ましくないものができてしまった時に、これらを排除するための体に備わった働きです。皮膚の免疫を担当する細胞は、全身の免疫系と連携して、何かあるとすぐ仲間を呼べるような体制をとっています。頼もしいのですが、反応して欲しくない物質に過剰に反応してしまうこともあります。ダニやほこりなどに反応するアトピー性皮膚炎や、そばやピーナッツなどに反応する食物アレルギー、接触性皮膚炎(かぶれ)、薬疹などは代表的なものです。また、本来反応しない体の組織に攻撃を加えてしまうこともあります。毛根に攻撃が加わると脱毛が起こります。皮膚自身に攻撃が起こった場合は、多くの水ぶくれができ皮膚が破れる水疱症という状態になります。なぜこのようなことが起こるのかはわかっていません。また、全身の免疫系とつながっているので、全身疾患の症状の一つが皮膚に出ることもあります。このような場合、皮膚は全身の異常を覗く窓になります。

 このように、皮膚は生体防御の中心的な役割を担い、ドラマチックな活動を静かに行っています。ひとたび歯車が狂うといろいろなことが起こりますが、同じ原因がいつも同じ症状を引き起こすとは限りません。免疫は非常に個人差の大きいしくみです。同じ細菌やウイルスに感染して全身に免疫反応が起こった場合でも、人によって違う症状を呈します。また、同じ人でも置かれた状況で違う反応がでます。たとえば薬疹は、ただ薬を飲んでも何も起こらず、ウイルスに感染している場合のみ激しい症状が出ることがあります。

 皮膚の病気には、まだ判らないことがたくさんあります。原因は何でしょうか、どうすれば防げるでしょうかという質問を受けることがあります。わかりませんと言わなければならない時は非常に残念な気持ちです。ただ、どんどん新しいことが判ってきています。すでに判っていることをわかりませんと答えないために、日々務めていきたいと思っています。