日赤医療集談会

第100回 日赤医療集談会 平成21年5月29日(金)

診療科を越えた協力体制で子どもを治療

『歯科・耳鼻科と連携して治す小児の疾患について』
第一小児科部長 永野(ながの) 千代子(ちよこ)

日赤医療集談会

建物に入口があるように、私たちヒトの体にも玄関口があります。気道に通じる鼻・副鼻腔と、消化管に通じる口腔です。そして、両者の境界領域には扁桃が位置しています(図1)。扁桃は本来、鼻・副鼻腔、口腔を通って侵入してくる外来病原微生物を表面から取り込んで粘膜免疫を始動させ、分泌型IgAという免疫物質の産生を指令して唾液と共に分泌させ、病原微生物が粘膜表面に付着する前に唾液と共に洗い流されることを目的として発達した免疫臓器ですが、一方で取り込んだ病原微生物が内部に生息して感染臓器となることもあります。

日赤医療集談会
(図1 鼻・副鼻腔と口腔、及び扁桃の位置関係)

 もし私たちが知らぬ間に数週間に及ぶ慢性副鼻腔炎に罹っていたり、あるいは虫歯・歯髄・歯周疾患により、大切な玄関口を汚していたらどうなるでしょうか。扁桃はこうした感染巣から絶え間なく細菌を取り込み排除しようと機能するものの、取り込んだおびただしい量と種類の細菌によって持続感染が引き起こされ、本来の免疫機能が発揮できない慢性扁桃炎になり得るのです。そして、その結果、慢性扁桃炎自体はほとんど無症状であるにかかわらず、二次的に遠隔の諸臓器にさまざまな疾患が引き起こされてしまうことにもなります。今日では、こうした状況に陥った鼻・副鼻腔炎、歯髄・歯周疾患、扁桃炎は「病巣感染巣」と呼ばれ、二次的に招来される疾患として、慢性腎炎、心筋梗塞や脳血管障害、喘息や肺炎、生活習慣病、更には低体重児早産などが知られるようになってきました。つまり、玄関が汚れた家全体が傷んでしまったという状態です。

日赤医療集談会
(図2 小児ヘノッホ・シェーンライン紫斑病とIgA腎症において見出された病巣感染巣)

 仙台赤十字病院小児科では、この考えに基づき、小児期に腎炎を引き起こす2大疾患であるヘノッホ・シェーンライン紫斑病※1/紫斑病性腎炎 (40名)とIgA腎症※2(11名)の病巣感染巣を探ってきましたが、図2に示すように、高い頻度で虫歯と根尖性歯周炎(虫歯が歯槽骨内に波及した疾患)や慢性副鼻腔炎が見つかりました。そして、早い時期に歯科と耳鼻科の先生にお願いして病巣感染巣の治療を行い、重症・遷延・再発・腎炎などに進行する場合には、免疫を制御するステロイド剤を大量に波状投与するパルス療法と、機能不全に陥った扁桃の摘出手術(扁摘)も行い、これまでどちらの疾患においても全員の治癒を得ています(図3)。根治治療が難しいとされてきたIgA腎症においても治療開始から1年以内に全員の尿所見の正常化が得られています。

日赤医療集談会
(図3 仙台赤十字病院における小児ヘノッホ・シェーンライン紫斑病とIgA腎症の治療)

全国的にまだほとんど例のない医科(小児科と耳鼻科)と歯科の連携医療ですが、これからも各科の領域を越えた密接な協力体制により、治癒が困難とされてきたさまざまな子どもの疾患の治療に取り組んでゆきたいと考えております。

※1 ヘノッホ・シェーンライン紫斑病
 皮膚の血管に炎症を起こし、下腿を中心に出血(紫斑)がみられるとともに、腎臓や消化管の小さな血管にも出血が生じてタンパク尿や腹痛なども伴う。数週の経過で改善することもあるが、再発することもあり、また腎炎を合併した場合には長期の経過観察が必要。

※2 IgA腎症
 腎臓の糸球体に免疫物質IgAが沈着している慢性の糸球体腎炎。腎臓の組織を顕微鏡で調べる検査(腎生検)で診断される。日本人に好発する、進行する腎炎の代表であり、進行すると腎機能が低下して、腎不全の症状があらわれ、透析療法が必要になる。