日赤医療集談会

第97回日赤医療集談会

最近の眼科診断治療法

眼科部長 桑原(くわはら) 創一郎(そういちろう)

 近年いろいろな科学技術の進歩に伴い検査機械・手術器具も進歩しています。眼科では1997年に実用化された光干渉断層計(OCT)を使って光学的に網膜の断面を観察できるようになりました。最新のOCTの画像は図1の様に眼球標本の顕微鏡写真に勝るとも劣らないものとなりました。OCTの導入により黄斑円孔・糖尿病網膜症・老人性黄斑変性症・硝子体黄斑牽引症候群などの網膜疾患の早期診断が容易になると同時に、以前には分からなかった病状の違いなどが分かるようになりました。また網膜の厚さを数値として表せるようになったおかげで、治療の効果をより客観的に捉えることができるようになりました。網膜疾患に対する様々な治療法はOCTの検査をもとに評価され、たとえば老人性黄斑変性症に対するステロイドの眼内注射や光線力学的療法・抗VEGF抗体の有効性が証明されることとなりました。

 そして手術器具の材質の改良のおかげで、より小さな傷口で硝子体手術ができるようになったのも2006年からでした。手術で目にかかる負担が少なくなったために、手術後の痛みや腫れが少なくなり入院期間が短くなると同時に手術後の視力の回復も以前より早くなりました。手術戦略の変化や手術手技が洗練されたおかげで、以前より合併症の頻度も減り手術の対象も広がりました。

 OCTの普及と硝子体手術の進歩の恩恵を最も受けたのが糖尿病網膜症です。以前は中途失明の原因として糖尿病網膜症が一番多かったのですが、2006年の調査では第二位となっていました。これは従来からある網膜光凝固術と重症な増殖性糖尿病網膜症に対する硝子体手術に加えて、糖尿病黄斑浮腫に対する種々の治療や比較的軽症な増殖性糖尿病網膜症に対する積極的な硝子体手術が糖尿病網膜症の治療成績の向上につながったと思われます。

 さらに最新型のOCTでは解像度が上がりたとえば緑内障による微細な神経繊維層の菲薄化をも検出することが可能となり緑内障の早期診断、その他の疾患の治療・診断の一助になることが期待されています。

図1:網膜組織の顕微鏡写真同様の解像度で網膜を観察できます。

図2:網膜にできた黄斑円孔(上)が手術で閉鎖しています。(下)

図3:糖尿病黄斑浮腫が手術により解消しています。

図4:わずかな視野変化(左)でもOCT(右)ではっきりと異常(赤い部分)が現れます。

小児外科における低侵襲アプローチ

東北大学大学院医学系研究科発生・発達医学講座小児外科学分野教授
仁尾(にお) 正記(まさき)

 近年の外科治療のキーワードの一つに「低侵襲」があります。これは手術のストレスをできるだけ少なくして、患者さんの苦痛を軽減し、また治療に要する期間の短縮を図るもので、1980年代の終わりころから世界中で急速に普及した内視鏡手術のもっとも大きな利点の一つにこの低侵襲性があります。そのため低侵襲手術と内視鏡手術がほぼ同義に用いられることがあるのですが、最近わたしどもが行っているアプローチは、内視鏡手術にこだわらず、種々の工夫によって幅広く低侵襲手術を実現しようというものです。

 わたしどもが行う低侵襲アプローチには、腹腔鏡や胸腔鏡を用いた手術(図1)に加えて、新生児・乳児の臍輪を使用した開腹手術、腋窩の皺を利用した肺・縦郭手術(図2)、直腸肛門疾患に対する人工肛門を作成しない一期的根治術、漏斗胸に対する小切開法や保存的治療などが含まれ、多くの疾患に対して一貫したコンセプトで治療にあたっております。

 いずれの手術もある程度の経験とそれぞれの状況に応じた対応が要求され、けっして難度が低いとはいえないため、小児外科専門施設でもこのようなアプローチを採用する施設は多くはないのですが、従来の手術方法の基本がおさえられていれば、十分安全に達成できる方法と考えています。安全で確実な治療を行うことがわたしどもの最大の使命ですが、さらにほんのわずかの心遣いを加えることで患者さんとご家族の不満・不利益を多少なりとも軽減し、QOL改善に寄与できるに違いないという気持ちで取り組んでおります。

 今後、小児外科領域のさらに広い疾患に低侵襲で整容性の高い(美容的な)アプローチを採用するとともに、長期的かつ綿密な機能評価を行うことによって、理想的な術式を確立することがわたしどものめざしているところであり、その実現のために、患者さんやご家族、医療関係の皆様のご意見やご要望に耳を傾け、努力を重ねてゆく所存です。

図1 腹腔鏡下胃食道逆流防止手術後(新生児例)
臍部と左右の側腹部のポート創痕はめだちません。

図2
右肺手術後(乳児例)

腋窩の皺に沿う切開創を用いることで創痕をめだたなくすることができます。