診療科から

糖尿病の目の病気

眼科部長  桑原(くわはら) 創(そう)一郎(いちろう)

糖尿病の影響はいろいろな形であらわれますが、目にもいくつかの病気が出ます。糖尿病そのものと同じように悪くなるまでなかなか自覚症状が出ないので、定期検査を受けていないと適切な治療時期を逃すことが多く注意が必要です。なかでも糖尿病網膜症が一番大事な病気になります。

<糖尿病網膜症ってどんな病気?>
糖尿病で出てくる網膜の病気を糖尿病網膜症と称します。網膜は目で受けた光を電気信号に換えるという目の中で最も大事な働きをします。網膜の働きが落ちると視力が下がったり失明したりします。事実、成人の失明原因として2番目に多いのが糖尿病網膜症です。糖尿病網膜症では初期には網膜出血・白斑が現れ、中期には新生血管が現れます。晩期になると目の中に出血(硝子体出血)したり、網膜剥離・血管新生緑内障など失明に直結する合併症が起こりやすくなります。

<糖尿病の悪い人だけが網膜症になるんでしょ?>
糖尿病のコントロールの良し悪しは網膜症に影響します。糖尿病コントロールの目安にHbA1cがありますが、この値が6.5%以下の人には網膜症になりにくいと言われています。しかし、血糖コントロールがよくても糖尿病にかかっている期間が長くなると糖尿病網膜症は出やすくなります。糖尿病になって10年たつと約50%に網膜症が現れるといわれています。しかも糖尿病はいつのまにか「なっている」ことが多く、いつ糖尿病になったのかはっきりしません。ですから糖尿病と診断されたときにはすでに網膜症があることもよくあります。いずれにせよ糖尿病といわれたら必ず眼科で検査を受けましょう。最初は網膜症がなくても、後から出てくることもありますから定期的に眼底検査を受ける必要があります。

<網膜症はどうやって治すの?>
初期の網膜症は血糖コントロールを良くすると、自然に治ることもあります。しかし中期以降になると内科的管理だけでは網膜症は治らず、レーザーや目への注射・手術などの眼科的治療が必要になります。治療の時期を決めるために視力や眼底検査だけではなく、蛍光眼底撮影という目の造影検査や網膜電図という網膜の働きを調べる検査、OCTという網膜の厚さを測る検査などで総合的に判断します。治療を始める前に網膜症が進んでしまっていると、治療を始めても視力が落ちていくのを止められないこともあります。

<どうなると見えなくなっちゃうの?>
黄斑浮腫や白内障でだんだんに視力が下がっていきます。網膜症が治療されずにいると、さらに硝子体出血や血管新生緑内障・網膜剥離を起こして突然見えなくなり、そのまま失明してしまうこともあります。

糖尿病黄斑症(黄斑浮腫)
網膜の中心部分(黄斑)がむくむことを糖尿病黄斑症(黄斑浮腫)といいます。初期の糖尿病網膜症でも起こることがあります。視力低下の直接の原因となり、むくみの程度によって視力が0.6~0.8といった「なんとなくかすむ」程度から、0.1以下の「見えない」状態まで様々です。初期にはむくみがあっても視力がほとんど下がらない時期もありますが、むくみが長く続くと視力は下がりやすく治療しても治りにくくなります。したがって視力があまり悪くない初期のうちに、血糖コントロールを良くし、タイミングよくレーザーやステロイド注射・硝子体手術をすることであまり視力が下がらないようにすることが大事です。

硝子体出血
網膜症中期・後期に現れる新生血管が何かの拍子に傷つくと目の中に出血することになります。墨が流れるような症状とともに暗くなり視力が急に下がります。必要に応じてレーザーを追加した上で、自然に出血が吸収されないときには手術を考えます。

網膜剥離
糖尿病網膜症が進むと増殖膜にひっぱられて網膜が剥がれることがあります。視力が急激に下がりそのまま失明することもあります。手術をしても普通の網膜剥離より治りにくく、治っても視力の回復は悪いことが多いようです。網膜剥離にならないように早めに治療を受けましょう。

新生血管緑内障
一度おこってしまうと治りにくく失明率が高い合併症です。眼圧が上がる前の発病初期に見つけて早期に十分なレーザー治療を行なうことが大切です。レーザーだけで落ち着かない場合には手術が必要になります。

<網膜症以外にも糖尿病の目の病気はあるの?>
網膜症のほかにも糖尿病で起こりやすい病気がいくつかあります。

○白内障
年をとると誰でも白内障になるのですが、糖尿病があると白内障の進行が早くから起こり、より若い時期から見え方に影響が出てきます。老化による白内障と同じように手術で視力は回復するのですが、白内障だと思って油断しているといつのまにか網膜症になっていることもあるので注意が必要です。

○複視
片目では普通に見えるのに、両目で見たときにだけ物が二つに見えることを複視といいます。目を動かす筋肉をつかさどる神経が糖尿病で働かなくなると起こります。突然物が二つに見え始めるのでとても目が疲れます。3~6ヶ月ほどで回復することが多いのですが回復しないこともあります。

<おわりに>
糖尿病網膜症は目の病気ではありますが、いくら目の治療をしても血糖コントロールが悪くては良くなることはありません。糖尿病は生活習慣病の例にもれず、日々の努力を続けることが大事です。一時的にがんばって良くなっても根気が尽きてしまっては元も子もありません。お迎えが来るまで縁の切れない悪友だと思って、倦まずたゆまず諦めずにじっくりと糖尿病とお付き合いしていきましょう。そして、まだ大丈夫だと思っていても、見えるうちに目の検査も受けましょう。

前医で光凝固術を受けていましたが全体的に不足気味で視神経乳頭の右側に増殖膜があり、白斑や出血が見られます。
光凝固を追加しましたが硝子体出血が起こり増殖膜の牽引が強くなり、部分的な網膜剥離になっています。
手術をして増殖膜と硝子体出血を取り除きました。網膜剥離も治ってきれいな眼底になっています。