◆第65回<7月11日>
呼吸器専門医からみたSARS:その特徴と感染予防
                          第一呼吸器科部長 三木 誠

 2002年11月中国・広東省での異型肺炎の集団感染が発生し、WHOが本疾患をSARS(重症急性呼吸器症候群severeacuterespiratorysyndrome)と命名して緊急情報を発信しました。後に、原因ウイルスはコロナウイルス(かぜウイルスの一つ)の新種であることが判明したものの、確立された治療法がないため、ベトナム、香港、シンガポール、カナダ、ドイツなど世界中に短期間で広がり、世界的な驚異となりました。特に医療従事者に多く発生し、院内感染が地域流行の発端となったため、われわれ仙台赤十字病院でもインフェクションコントロールドクターを中心に院内感染対策委員会で院内感染予防と治療法についての協議を行いました。幸い日本で発病することはなく、7月5日にはWHOから終息宣言が発表されましたが、冬になると再び感染が再興することが予想され、さらなる注意が必要です。
 日本の厚生労働省が発表したSARSの症例定義では、38度以上の急な発熱、咳、呼吸困難感などの呼吸器症状かつ発症前にSARS発生が報告されている地域に旅行した者を疑い例とし、さらに胸部レントゲン写真で肺炎、または呼吸窮迫症候群を呈した患者を可能性例とするとされています。ところがSARSの症状は、発熱がほぼ全例に出現するものの、乾性咳吸69.4%、呼吸困難41.7%と呼吸器症状が認められるのは約半数であり、筋肉痛、頭痛、倦怠感、悪寒戦懐、腹痛、下痢、悪心嘔吐、鼻水、咽頭痛、関節痛といったいわゆる"かぜ症状"を呈するため、鑑別することは容易ではありません。検査値も同様で、リンパ球数が減少し、肝機能(AST,ALT)とCPKが上昇するといったウイルス感染症に共通する所見しか認められません。また、胸部レントゲン所見は多彩な陰影を呈し、診断は困難です。
 早期に診断がつかず重症化すると、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)で死亡に至ります。その頻度は、24歳以下では1%未満、24〜44歳では約6%、45〜64歳では約15%、65歳以上では50%以上、年齢が高くなるに従い高率となります。
 感染制御に成功するためには、感染源対策(トリアージ/隔離の徹底)と感染経路を遮断(交差感染の防止つまり(∋標準予防策、飛沫/接触感染予防策(外科用またはN95マスク,ガウン,手袋,手洗い)、A環境/物品の消毒)することが重要です。SARSウイルスは、他のウイルスに比べて長期間患者のまわりに存在していますが、次亜塩素酸(ハイターなど)や消毒用エタノールなどの消毒剤によって死滅します。
 SARSは21世紀なってから初めての,重篤かつ感染性の強い新興感染症ですが,迅速な患者隔離と十分な感染制御方法を行えば感染制御が可能であり、今年の冬の流行を避けることが我々に与えられた重要課題です。

◆第66回<9月12日>
                          小児外科部長 遠藤 尚文

 重度の脳神経障害を有する患児では疇下運動の不備により誤喋が生じ、頻回の呼吸器合併症を繰り返す児が数多くいます。これらの児に対して当科では喉頭気管分離術を施行しております。今回は手術の成績と介護する方々の負担を解析しお話致しました。2001年12月からの14ケ月間にこの手術を受けた患児は16人いました。内訳では気管を切開した後に、喉頭につながる頭側気管を縫合して閉鎖する喉頭気管分離術が6人の児に、頭側気管を食道に縫合する食道気管分流術が10人の児に行われました。どちらの手術方法でも肺につながる方の下部気管を永久気管口として頚部に出し、ここで呼吸を行います。
 手術後の結果では気管や口腔の分泌物を吸引する回数は著明に改善し、重症の肺炎や他の呼吸器感染症の頻度は減少しました。手術前からある程度の喋下運動ができた患児11人では、それまで誤醸する事が怖くてできなかった食物の経口摂取訓練が術後には開始でき、1人の児では半固形物も食べることができるようになりました。また、呼吸に伴う苦痛が軽減された結果、安心して幅広いリハビリをうけることが可能となりました。
 術後合併症は1人で気管膜様部と食道気管吻合部に痩孔ができ、一時唾液が漏れましたが、保存的管理で閉鎖しました。また、手術創の感染と肉芽形成が各々1人に認められました。さらに残念な事に、術後2〜3ケ月の2人で、気管チューブ先端による気管動脈療が認められ、1人が亡くなられました。また、アンケートでは日常介護をしているご両親の精神的肉体的負担も軽くなったと評価される方も多く満足度は高いと思われる一方で、発声できなくなったことで意思疎通が上手くいかなくなったことにたいするこだわりを訴える方が多かったのも事実です。
 しかし、全体としては、この術式は適切に管理されるかぎり、誤礁による呼吸器合併症を効果的に防止でき、患児の生活の質(QOL)は著明に改善されたということができます。



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