診療科から
■"はしか"はこわい病気です       第一小児科部長  永野 千代子
I. はじめに
 はしか(麻疹)は今日においても恐るべき感染症であり、WHO推計は全世界的に毎年3000万人以上の患者と87万5千人の死亡者を報告しています。この脅威に対抗する為、米国、ヨーロッパ先進諸国の多くが麻疹対策に積極的に取り組んでおり、米国の年間患者数が100人未満にまで減少している一方で、わが国においては、いまだに年間10−20万人規模の患者の持続的発生と約80人近い死亡者が報告されており、日本は麻疹に関しては恥ずべき後進国となっています。さて、日本の患者のうち約半数が2歳以下の乳幼児ですが、近年、20歳代の成人麻疹の増加が目立ち、これらの患者の殆どが麻疹ワクチン未接種者であることが確認されています。
II.麻疹の症状
 麻疹ウイルスは感染力がとても強く空気感染でもうつります。廊下をすれ違っただけでうつった例も報告されています。このウイルスはヒトの免疫を司るリンパ球に感染するため、免疫能が低下して他の合併症を伴いやすいのも特徴です。うつされた後、10−12日ほどして症状が出ます。まず、発熱、咳、鼻水、下痢、結膜炎がはじまり、その後3−4日目に一度熱が下がったようにみえます。この頃、ほっぺたの裏側にコップリック斑と呼ばれる白い斑点(粉チーズ様)が出ます。半日たつと再び高熱が出て、発疹が出始めます。咳はますますひどくなり、高熱のため、食欲不振が目立ちますが、合併症を起こさなければ、2度目の熱は4−5日ほどで下がり、色素沈着を残して発疹も褪めてきます。学校伝染病ですから、解熱後3日を経過するまで出席停止となります。















III.麻疹の治療
 麻疹ウイルスに効く薬はありません。咳止めなどの薬と2次感染予防のための抗生物質を使用します。昔は"麻疹は暖めろ"と言われましたが、これは間違いです。部屋は20度くらいにして、咳が激しい時には加湿しましょう。熱によって脱水症をおこしやすいので、飲み物は充分にあげてください。プリン、アイスクリームも本人が欲しがればOKです。症状が重い場合は入院治療が必要ですが、その割合は約40%です。合併症としては、肺炎(頻度は約15%)、中耳炎(5−10%)、喉頭気管支炎(1−5%)、脳炎(0.1%)、けいれん(1%)、亜急性硬化性脳炎(まれ)などがあり、治療を要します。重症型の麻疹には、内攻型麻疹といって発疹が突然消えて呼吸困難や心不全にいたるタイプと、出血性麻疹といって皮膚に出血斑がでて血液凝固機能に異常をきたすタイプがあり、いずれも治療は困難を極め、生命が脅かされます。
IV.麻疹の予防
 ワクチン接種によって予防出来ます。1978年に日本において生ワクチン接種が開始され、一回接種後の免疫獲得率は95%以上です。生後12ヶ月から90ヶ月を接種年齢としていますが、1歳になったらすみやかに予防接種をすべきです。生後6ヶ月以降は母親由来の免疫が減弱する為、麻疹流行期や保育園などで集団生活をしている場合には有料で任意接種することもお勧めします。ただし、その場合には1歳以降に再接種が必要です。副反応として20%程度の子に発熱や発疹がみられることがありますが軽症です。卵アレルギーの子も安全に受けられますので小児科医に相談してください。
V. おわりに
 わが国における1歳児の麻疹予防接種率は50%台、2歳児においても80%未満にとどまっており、このことが麻疹の小流行を招く原因となっています。皆さんの周りには、まだ接種をうけていないお子さんはいませんか。もういちど確認してみてください。もしまだ接種していなかったら早めに受けてください。多くの麻疹の子どもたちを診療し、また死にゆく子どもを看取り、その家族の悲しみをまのあたりにした小児科医からのお願いです。


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