◆第61回<11月8日>
心不全治療 一最近の動向一
           第一循環器科部長 池田 淳

 慢性心不全の治療薬は1980年代まで、ジギタリス製剤と利尿薬の併用が一般的でした。1980年代は血管拡張薬の心不全への有効性が確認され治療のガイドラインに取り入れられてきましたが1990年代に入り、ACE阻害薬に生命予後への改善効果があることが多くの大規模臨床試験の結果から証明され、1990年代半ば以降の心不全治療はACE阻害薬を基本とするものに変化してきました。
 一方、慢性心不全治療に使用可能なジギタリス製剤以外の経口強心薬が1980年以降次々と行われて来ました。しかしながら、PDE阻害薬と分類されるこれらの薬剤はいずれも長期投与を行うと生命予後が悪化する事が示され、現在は急性期に静脈内投与によって使用されています。
 1980年代以降、先に述べたACE阻害薬以外にもβ遮断薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬などの慢性心不全への有効性が示されてきました。これらのデータを踏まえ、米国心臓病学会(AHA/ACC)では2001年末に1995年以来の心不全治療ガイドラインの改訂を行いました。今回の改訂では、心不全の重症度を従来の分類にはとらわれないStageA,B,C,Dの4段階に分類しそれぞれのStageに推奨される治療をこの10年間に蓄積された臨床治験のデータに基づいて推奨されるレベル(classI、II、III)に分けて記載し、それぞれの推奨レベルの理由となった治験データをエビデンスのレベルとして(A,B,C)と付記してあります。これにより、臨床症状のある慢性心不全患者に対して、従来のACE阻害薬、利尿薬、ジギタリス製剤の他にβ遮断薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬の併用に関するガイドラインが出来ました。
 β遮断薬は1990年代半ば以降その有効性が証明され、今回日本でも最も有効とされているβ遮断薬carvedilolの心不全治療への保険適応が認められる事となりました。しかし、β遮断薬は一定の割合の無効例があることが知られており慢性心不全患者に投与する際は、少量から開始し、心機能の変化を見ながら、漸増させていく必要があります。これらの投与法には一般的なものは無く、現在東北大学循環器内科で標準化の方法を検討しております。
 今回の米国心臓病学会のガイドラインで定義された最も重症なstageDの患者については、それ以前のStageでの治療法の継続のほか、推奨レベルClassI(最も推奨される)の中に心臓移植も入っています。日本では脳死移植が法的に認められてから、14例(2002年11月の例を含めると15例)の心臓移植が行われていますが、諸外国と比較してまだその実施数は少なく、移植が医療として定着しているとは言い難い現状です。移植登録を行った症例の自然予後と比較して移植を受けた患者の生命予後には明らかな改善が見られ、今後心臓移植が医療として定着して行くことが望まれます。



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